Chapter 2

仕事の効率的な進め方を理解する

仕事と成果の構造を理解する。ここが全部の土台になります

漫画:深夜のオフィスで資料の山を前に満足げな営業担当。だがスマホには「引き続き社内で確認中です」の返事。全部やったのに、なぜ

チャプター1の5段階の、1段目です。まだAIの話はほとんど出てきません。 まずは仕事の効率的な進め方を学んでいきます。

会議をする。資料をまとめる。数字を取る。企画を書く。バラバラに見えますが、この世のすべての仕事は、ゴールを前に進めようとしているだけです。

そもそも、仕事とは何なのか

仕事は、めちゃくちゃ複雑そうに見えます。営業、採用、経理、企画。会社の中には何百種類の仕事があります。でも、骨組みを取り出すと、全部同じ形をしています。

どんな仕事にも、「こうなってほしい」という状態があります。

  • 営業なら: お客様が導入を決めて、契約できている
  • 採用なら: 必要な人が入社して、活躍し始めている
  • 経理なら: 月末までに、請求と支払いが済んでいる

これが理想の状態です。よく見ると、どれもチャプター1で書いた成果が出ている状態を言葉にしたものです。

一方で、「いま、実際はこうなっている」という状態もあります。お客様はまだ迷っている。応募が足りていない。請求書が半分しか送れていない。これが現在の状態です。

もし現在と理想がまったく同じだったら?何もする必要がありません。現在と理想の間に差分があるから、仕事が生まれます。 差分を埋めて理想の状態に届いたとき、成果が生まれる。だからこう言えます。

仕事とは、成果を生むための目標達成である。 理想と現在の差分を埋めたとき、成果が生まれる。

差分は、一手で埋まることもあります。メール1本で終わる仕事なら、それで完了です。

しかし、受注、採用など、ほとんどの仕事はそうはいきません。そんな時は、こう進めます。

  1. 理想と現在の差分から、ボトルネックを特定する。いま一番詰まっているところです
  2. そのボトルネックを解消できるToDoを考える
  3. ToDoをやる
  4. 結果が返ってきて、現在が更新される。理想との差分も、新しいものに変わる
  5. その新しい差分から、またボトルネックを特定する

あとは2から5の繰り返しです。繰り返していくと、いずれ理想と現在が重なります。 そうなったら完了です。この回り方を目標達成ループと呼びます。

ボトルネックが分からないときもあります。 そのときは、いまの現在からできることをやって差分が見えるようにするか、仮説でボトルネックを置いて進めます。動かしてみて分かることのほうが多いです。

そして、もうひとつループがあります。理想と現在の差分が大きすぎて、何をしたらいいか全く分からないとき。 そして、外の事情が変わって、目指す先そのものがずれたとき。 こういったときは、理想のほうを書き直します。これが目標更新ループです。

理想が現実と噛み合っていないと、正確に回すほど、間違った場所へ正確に着く。

目標達成ループ×目標更新ループ

この二つを合わせて、Goal Loop。

理想現在差分ボトルネック → ToDo行動結果

結果が「現在」を更新するのが目標達成ループ、「理想」そのものを見直すのが目標更新ループです

図の青い実線が目標達成ループ、黄色い破線が目標更新ループです。この2つを回し続けることで、目標を達成できます。合わせてGoal Loopと呼びます。

「それはPDCAでは?」と思った方は、鋭いです。ただしPDCAは目標が固定されている場合の回し方で、目標達成ループの別名と言えます。Goal Loopには、目標のほうを直すループが組み込まれています。仕事で本当に難しいのは、こちらです。

そして、仕事のゴールは一つとは限りません。「提案を受注する」の中には「顧客を理解する」「課題を特定する」「提案を作る」があり、その一つひとつにも理想と現在と差分があります。

ゴール: この提案を受注する

顧客を理解する

課題を特定する

提案を作る

構成を決める

レビューを通す

ゴールの中にゴール。⟳の一つひとつが、理想と現在の差分を埋めるGoal Loopです

大きな仕事の中に小さな仕事があり、その中にもっと小さな仕事がある。そして、どの大きさでも形は同じです。 理想があって、現在があって、差分を埋める一手を打つ。会社全体の目標も、今日出すメール1本も、回り方は変わりません。

仕事は、Goal Loopの入れ子構造である。

「仕事ができる人」は、この目標達成ループを回すのが上手です。 ゴールを見失わず、現状を証拠で掴み、詰まっているところから手を打つ。それを速く、何周も回せる人が、成果を出してきました。

そして、Goal LoopはAIを使うことで、誰でも上手く回せるようになりました。

仕事ができる人がやってきたことを、AIにも回させる。

AI活用でやることは、この形をAIにも回せるようにする。これだけです。回す主体は、人間でもAIでも、複数の人間とAIでも構いません。

AIが主体でループを回す世界は、もう身近にあります。SNSのおすすめ表示です。理想は「ユーザーが長く見続けている」、現在は「実際の滞在時間」。差分を見て表示を調整し、滞在が伸びれば採用、下がれば戻す。ChatGPTが登場するずっと前から、アルゴリズムはこのループを回し続けてきました。あなたの仕事のループも、同じ形で回せます。必要なのは、AIに理想(ゴール)と現在(コンテキスト)が見えていることです。

ゴール、子ゴール、ToDo

ここまでに出てきたものに、呼び名を付けておきます。

呼び名中身
ゴール一つの仕事のまとまり。目指す状態(「理想」)と、いまの状態(「現在」)を、セットで持ちます
子ゴール大きいゴールの中にある、小さいゴール
ToDo一回やれば結果が返る、いちばん小さい単位。さきほどの「一手」

ここからは、実際の案件でGoal Loopを回してみます

ここまでが形の話です。ここからは、ひとつの仕事でループを1周ずつ回す様子を見ていきます。

題材は、冒頭の営業担当が抱えている法人研修の提案です。提案は出したものの、先方の返事は「社内で確認中です」のまま、2週間止まっています。あなたがこの案件の責任者だとして読んでください。

漫画:「とりあえず、事例を足しておくか」と提案資料を触っていた営業担当が、ふと手を止めて「……これ、意味あるのか?」とつぶやく

彼が今日やろうとしていたToDoは「提案資料のデザインを整えて、事例ページを10枚足す」でした。そのToDoは、どのゴールの、どのボトルネックから来たのか。 彼は答えられませんでした。ToDoから仕事を始めると、こうなります。

この章では、この止まった提案をGoal Loopで最初から組み直して、動き出すまでを見届けます。読み終わったとき、「一つの仕事でGoal Loopが回る様子を、判断ごとに説明できる」が到達点です。あなたも、いま抱えている仕事をひとつ思い浮かべながら読んでください。

ステップ1: 得たい成果を、仕事のゴールに変える

現場に「この仕事のゴールは?」と聞くと、たいていこう返ってきます。

「提案資料を完成させて、先方に送ることです」

ここに最初の落とし穴があります。「完成」をゴールにしてはいけません。 資料が完成しても、お客様が何も決めていなければ、現実は1ミリも変わっていないからです。チャプター1の言葉で言えば、資料は成果物であって、成果とは別物です。

では、正しいゴールはどこから来るのか。担当者の思いつきからでは決まりません。会社の目標から、降ろしてきます。

会社の上位ゴール

今期、法人研修事業の受注目標を達成する

この仕事のゴール

この提案を受注する

手段のひとつ

提案資料を完成させる

「資料を完成させて、レビューを通す」をゴールにする

上位から降ろして「受注する」をゴールにする

「資料を完成させる」は、このゴールの手段のひとつにすぎません。

そして、ここが経営側の仕事です。担当者が自分の判断で上位の目標を推測しても、会社が目指しているものとは噛み合いません。上に置くゴールを決めて、降ろすところまでやるのは、経営と責任者の側です。ここが空のまま「AIを活用しろ」と号令をかけても、現場は手元のToDoを速くするだけで終わります。チャプター0の会社が、まさにそれでした。

ゴールは、下から積み上がらない。上から降ろす。

降ろしたら、上位との接続を一言で言えるか確かめてください。「なぜこの仕事をやるのか」に「受注目標のためです」と即答できれば合格です。

ゴールには、完了条件(DoD)を書く

ゴールを決めたら、何がどうなったら達成なのかを一緒に書きます。これを完了条件(DoD / Definition of Done)と呼びます。

  • ✕ A社の法人研修を受注する — 「受注」がどの状態を指すのか、人によってずれます
  • ○ 決裁者が、判断材料(期待効果・実施体制・費用)を揃えて、導入の判断ができている

書けているかの見分け方はひとつです。達成したかどうかを、自分以外の人が見ても同じように判定できるか。 「頑張る」「しっかりやる」は判定できないので、完了条件になりません。

完了条件があると、次に何をすればいいかが自分で分かります。 いまの状態と完了条件を並べれば、足りないものがそのまま差分として出てくるからです。チャプター3でAIに仕事を渡すときも、ここが渡せているかで結果が変わります。

ステップ2: ゴールに対する現状を、証拠で捉える

次に、「受注する」に対して、現実はいまどうなっているのかを見ます。彼の答え方が、これでした。

「A社の件、どう?」
「進んでます。提案書はほぼ完成なので、あとは先方の返事待ちです」

よくあるやり取りです。ただ、これで分かるのは提案書がどこまでできたかだけで、受注に近づいたかどうかは何も分かりません。「順調です」「まだできていません」も同じで、どれも感想です。

現状は、証拠で見ます。 やり方は、理想と現状を並べることです。

  • 理想(このゴールの完了基準): 決裁者が、判断材料(期待効果・実施体制・費用)を揃えて、導入の判断ができている
  • 現状(証拠で書く):
    • 研修内容と価格は、資料で先方に伝わっている(送付済みメールが証拠)
    • 期待効果は「生産性が上がる」という説明だけで、ROI(投資対効果)の算定根拠がない
    • 3週間後に開始できる実施体制が、社内で未確認
    • 決裁者が何に引っかかって保留しているのか、分かっていない

理想と現状を証拠で並べると、足りないものが自然に浮かび上がります。この時点で、足りないものが4つ見えました。

ステップ3: 最重要ボトルネックを選ぶ

足りないものが4つ。全部、いまやるべきでしょうか。

「抜け漏れなく、全部やります」。真面目な人ほど、こう動きます。彼もこの2週間、実際にそう動いてきました。ROI資料を作った。体制表も作った。セキュリティ質問への回答も完成させた。そして今日は、事例を10枚足すつもりでいた。それでも決裁者は「社内で確認中」のまま。

ToDoから始めると、仕事はズレる。

やるべきは、差分の中から理想が叶わない「一番の原因」を選ぶことです。選び方は、問いひとつだけ。

「いま、ゴールに対して一番クリティカルなのはどれ?」

やってしまいがちな選び方と比べると、違いがはっきりします。

  • ✕ 一番簡単そうだから、事例ページから
  • ✕ 一番目立つから、資料のデザインから
  • ○ 受注を止めている一番の原因はどれか、で選ぶ

この案件の最有力は「決裁者が保留している本当の理由が分かっていないこと」でした。理由が分からないまま何を作っても、当てずっぽうだからです。

選んだら、今日やらないことも決まります。事例ページ10枚の追加は、それが決裁を止めている証拠がないので、今日はやりません。ボトルネックは固定の順位表とは違い、結果で現在が変われば入れ替わります。だから「今日の一番」だけ選べば十分です。

ステップ4: ボトルネックを、結果が返る一手に落とす

「決裁者の保留理由を確かめる」。これは、もう実行できるToDoです。

見分け方はシンプルです。一回の行動で結果が返るならToDo。返らないなら、子ゴールに割ってからToDoに落とします。

  • 「直近2回の商談記録を読み、決裁者が口にした判断条件と保留理由を抜き出す」→ 一回の行動で結果が返る。ToDo
  • 「3週間後に開始できる実施体制を固める」→ 講師の稼働、必要工数、顧客側の体制と、論点が複数ある。子ゴールにしてから、その中でToDoに割る

こうしてゴールの下に子ゴールが並び、その下にToDoが並びます。この並びをゴールツリーと呼びます。名前が付いているだけで、やっていることはこの章の前半で書いた「大きい仕事の中に小さい仕事がある」と同じです。

そして、大事な作法がひとつ。この木を、先の先まで書き切らないでください。 計画を全部並べたくなりますが、現実から次の結果が返るところで止めます。結果で現在が変われば、正しい次の一手も変わるからです。

ペットボトルをゴミ箱に投げ入れるとき、重さを量り、軌道を計算し、ゴミ箱が倒れないかを確認してから投げる人はいません。一回投げて、外れたら、外れ方を見てもう一回投げる。そのほうが早くて正確です。仕事の計画も同じ。使わない計画づくりに時間を使うより、一手早く現実に当てます。

ステップ5: 結果で現在を更新して、繰り返す

ToDoは、終わらせてからが仕事です。 返ってきた結果で、ゴールの現在を更新します。

更新したら、ステップ2に戻ります。 新しい現在から差分を見て、ボトルネックを選び直して、またToDoに落とす。理想と現在が重なるまで、これを繰り返します。

戻る前に、取れる手は4つあります。完了する(完了基準が証拠で満たされた)、続ける(ゴールは維持して、次のボトルネックへ)、調べる(判断材料が足りない)、渡す(次に動くべきなのが自分ではない。チャプター3でやるAIへの任せ方は、この手の延長です)。

目標達成ループ×目標更新ループ

この二つを合わせて、Goal Loop。

理想現在差分ボトルネック → ToDo行動結果

結果が「現在」を更新するのが目標達成ループ、「理想」そのものを見直すのが目標更新ループです

彼は商談記録2回分から、決裁者の発言だけを抜き出しました。出てきたのは「3週間後に、本当に始められるのか」「現場側では誰を、どれだけ確保するのか」。保留の理由は、資料の見た目でもROIでもなく、実施体制の不安でした。

現状が書き換わったので、次の一手も変わります。稼働表と照合して、実施体制の回答を作って送る。この2アクションで、2週間止まっていた案件が動き出しました。

判断を変えたのは、センスではなく、証拠です。

通しで目標達成ループを回してみる

同じ案件を、理想と現在が重なるまで回してみます。

  • ゴール: A社の法人研修を受注する
  • 理想(完了基準): 決裁者が、判断材料(期待効果・実施体制・費用)を揃えて、導入の判断ができている

1周目

現在提案書は送付済み。返事は「社内で確認中」のまま2週間
ボトルネック保留の理由が分からないこと
ToDo直近2回の商談記録から、決裁者の発言だけを抜き出す
結果「3週間後に本当に始められるのか」「現場から誰を出すのか」
現在を更新する止めていたのは価格でも資料でもなく、実施体制の不安だった

2周目

現在実施体制の不安で止まっている
ボトルネック講師の稼働が確定していないこと
ToDo稼働表と照合して、開始日と講師体制の回答を送る
結果返信あり。「体制は問題ない。ただ、現場から2名出すのが今期は難しい」
現在を更新する残る障害は、顧客側の人員

3周目

現在体制は組めるが、顧客側が今期2名を出せない
ボトルネック先方の人員負担が、判断を止めていること
ToDo参加人数を絞った試験導入の案と、その場合の費用を出して送る
結果「その規模なら現場を説得できる。費用も想定内」
現在を更新する期待効果・実施体制・費用の3つが、これで揃った

4周目

現在判断材料は揃った。決裁の会議が来週
ボトルネック決裁の場で、担当者ひとりが説明しなければならないこと
ToDo決裁者がそのまま使える1枚の要約を作って渡す
結果稟議が通り、発注書が届いた
現在を更新する決裁者が判断材料を揃えて、導入を決めた

理想と現在が重なりました。 このゴールは完了です。

4周を通して、彼が作ったのは最後の要約1枚だけでした。あとは、商談記録を読み、回答を送り、条件を出し直しただけです。2週間ぶんの資料づくりでは動かなかった案件が、これで着地しました。

漫画:「作ったのは、この一枚だけか」と要約を手にする営業担当。四周まわして打った手は四つ。届いた返信に「……決まった」とつぶやく

おさらい

  • 仕事のゴールは、思いつきや「完成」からでは決まらない。上位のゴールから降ろす
  • 現状は、感想でなく証拠で書く。理想と並べると差分が見える
  • 差分の中から、問いひとつでボトルネックを選ぶ。「いま、ゴールに対して一番クリティカルなのはどれ?」
  • 一回の行動で結果が返る形までToDoを割る
  • ToDoは終わらせてからが仕事。結果で現在を更新すると、次の一手が変わる

ここまで、全部人間が回しました。次の章から、この同じループをAIに渡します。覚え直すことはなく、いま回しているループの一部を、AIに持たせるだけです。