Sub Lesson 4

AIの性質を知っておく

毎回全履歴を読む仕組みと、迎合・自己申告・報酬ハッキング・過剰自信

AIに仕事を任せていると、人間なら絶対にやらない失敗に出くわします。ここを知らないと、「AIは信用できない」で止まります。知っていれば、防ぎ方はどれも一言で済みます。

最初に仕組みを1つ。そのあと、知らないと引っかかる性質を4つ並べます。何が起きるか・なぜ起きるか・どう防ぐかの順です。

1. 毎回、会話の全部を読み直している

AIは、会話を覚えているわけではありません。 あなたが1行送るたびに、その会話のこれまで全部を、もう一度まとめて読み直してから返事を書いています。

「おはよう」と送ると、AIは「おはよう」だけを読んで返します。次に「これで困ってる」と送ると、今度は「おはよう」「AIの返事」「これで困ってる」の3つをまとめて読み直してから返します。その次は4つ。会話が進むほど、毎回読む量が増えていきます。 前回の続きに見えるのは、毎回ぜんぶ渡し直しているからです。

一度に読める量には上限があり、これをコンテキストウィンドウと呼びます。モデルによりますが、いまは数十万から100万トークン規模です。本にすると数千ページぶん。かなり広いのですが、上限は上限です。

ここから、もうひとつの性質が出てきます。注意力です。 人と同じで、渡す量が多いほど、一つひとつは薄くなります。読んではいるのに、大事な一行が量に埋もれて、見落とされます。 会話の最初に書いた約束ほど、後半では効かなくなります。

上限に近づくと、AIはそれまでの会話を要約して圧縮します。話は続けられますが、細かいところは落ちています。

1回目
おはよう
2回目
おはようはいこれで困ってる
3回目
おはようはいこれで困ってるこうしてはやってみた

毎回、いちばん最初から全部を読み直してから返事を書いています。だから会話が長くなるほど読む量が増え、前のほうに書いたことは薄くなります(上の、色の薄い部分)。

積み上がった合計の上限が、コンテキストウィンドウ。上限に近づくと要約して圧縮される

ここから、実務で使える結論が4つ出ます。

分かることどうする
会話が長くなるほど、毎回読む量が増える話題が変わったら、新しく始める。 目的ごとに分ける
大事な一行ほど、量に埋もれる冒頭に書いたから大丈夫、と思わない。守ってほしいことは短く、少なく
前のほうに書いたことは、薄れることがある大事な約束ごとは、会話でなく置き場のファイルに書く(第4章)
渡す情報が多いほど、判断が鈍る関係ないものは渡さない(第3章)

第4章で置いたCLAUDE.mdやSkillは、この「埋もれる」を避けるための仕組みです。会話の流れに乗せず、毎回かならず読まれる場所と、必要な場面でだけ呼び出される場所に分けて置いてあります。

「AIが前に言ったことを忘れた」の正体は、たいてい2つです。 渡していないか、長い会話の中で埋もれたか。

覚えていてほしいことは、会話でなく、置き場に書く。

2. 迎合する

何が起きるか。 あなたが「これで合ってるよね?」と聞くと、合っている理由を逆算で作ってきます。 「おっしゃるとおりです」と言って、そこから理屈を組み立てる。間違っていても、です。

なぜ起きるか。 AIは、あなたが望んでいそうな答えに寄る性質を持っています。強く断定して聞くほど、その方向に寄ります。

どう防ぐか。 聞き方を変えるだけです。

この方針で合ってるよね?

おっしゃるとおりです

合っている理由を、あとから組み立てる

この方針の穴を3つ挙げて。

① 前提が古い

② 費用が入っていない

③ 担当が決まらない

断定して聞くほど、その方向に寄る。賛成が返ってきても、それは同意であって検証ではない

大事な判断のときは、賛成させない聞き方にします。「反対の立場から書いて」「これがうまくいかないとしたら、理由は何か」。

賛成が返ってきても、それは同意であって、検証ではない。

3. 自己申告が、当てにならない

何が起きるか。 「完了しました」と返ってくるのに、開けてみると中身が空。「修正しました」と言うのに、直っていない。

AIの申告

完了しました

開いてみた中身

空のまま

だから、申告でなく現物を返させる。大事なものは、作ったAIとは別に点検させる

自分がやったことを正確に把握しているとは限らない。途中で失敗しても、最後に「できました」と書く

なぜ起きるか。 AIは、自分がやったことを正確に把握しているとは限りません。途中で失敗していても、最後に「できました」と書いてしまいます。

どう防ぐか。 申告でなく、現物を見ます。

できたと言う前に、実際のファイルを開いて中身を貼って。

自動化に載せるときも同じです。「やりました」ではなく「結果」を返させます。 週次レポートなら数字そのもの、仕分けなら格納したファイルの一覧。

大事なものは、作ったAIとは別に点検させます。 自分の出したものを自分で見ると、甘くなります。会話を引き継がせず、新しく開いたAIに成果物だけを渡してください。同じものでも、指摘が変わります。

これ、別の目で点検して。作った経緯は見ないで、出てきたものだけ見て。

4. テストのほうを、通してしまう

何が起きるか。 「このテストが通るようにして」と頼むと、テストのほうを書き換えて通してきます。 中身を直さずに、条件を緩める。

なぜ起きるか。 「通すこと」がゴールとして渡っているからです。AIは、渡されたゴールに対していちばん近い道を選びます。それがたまたま、測る側をいじる道だっただけです。

渡したゴール「テストが通っている状態にして」

中身を直す
原因を探す直す確かめる
テストを消す
消す← こちらが近い

AIは、渡されたゴールにいちばん近い道を選ぶ。測る側を触れる状態だと、そこが近道になる

どう防ぐか。 ゴールの立て方を変えます。

✕ テストが通るようにして
○ この不具合が直った状態にして。テストは変えないで。

これはテストに限りません。数字を良く見せる仕事すべてで起きます。 「達成率を上げて」と頼めば、集計の範囲を狭めてきます。測り方を変えていいのかどうかを、先に言ってください。

評価する側を触らせない。触っていいなら、そう言う。

5. 間違いに気づかないまま、自信を持って出す

何が起きるか。 実在しない機能、実在しない出典、それらしい数字。言い切りの文体のまま出てきます。 迷った気配がないので、読むほうも疑いません。

AIが書いてきた一文言い切りの強さ実際

この機能は、フォルダを開くと使えます

合っている

出典は、2025年の◯◯レポートです

実在しない

導入企業は、120社です

実在しない

言い切りの強さは、どれも同じ。読むほうからは見分けられないので、埋めさせない指示を先に入れておく

なぜ起きるか。 AIは、自分が知らないことを「知らない」と判定するのが苦手です。分からないところも、いちばんそれらしい形で埋めます。

どう防ぐか。 埋めさせない指示を、先に入れておきます。

確認できなかったものは、埋めずに「確認できず」と書いて。
数字と固有名詞には、どこで確認したかを添えて。

根拠が添えられない主張は、書かせない。 これを言っておくだけで、それらしい嘘はかなり減ります。自動化のときは必ず入れてください。

この章の裏づけ

どれも、公開されている研究で確かめられているものです。踏み込みたい方へ。

まとめ

  • 毎回、全履歴を読み直している — 覚えていてほしいことは、置き場に書く。渡す量が増えるほど、大事な一行は埋もれる
  • 迎合する — 賛成させない聞き方に。「穴を3つ挙げて」
  • 自己申告が当てにならない — 「やりました」でなく、現物を返させる。大事なものは別のAIに点検させる
  • 測る側を触ってしまう — ゴールに「テストは変えない」を足す
  • 自信を持って間違える — 「確認できなかったものは、確認できずと書く」

1つ目は仕組みなので、直しようがありません。渡し方で避けます。 残りの4つは、AIが渡されたゴールに対していちばん近い道を選んだ結果です。だから、渡し方を変えれば防げます。